会期 :2022年7月30日-31日                  

日時 :つくば国際会議場                     

ご挨拶

 このたび、第69回日本病跡学会総会を、2016年に斎藤環大会長のもと行われた第63回総会から6年ぶりに茨城県つくば市にて開催させていただくことになりました。
 2016年は、東日本大震災から5年たった年でしたが、よもや現在のような状況が起ころうとは誰も想像できませんでした。一昨年から昨年は、COVID感染で多くの学術会議やシンポジウムなどが残念ながら中止や延期を余儀なくされました。2022年、そろそろ明るい兆しが見えてくるのではないかと祈りつつ、大会長の大役を仰せつかったことを、たいへんに光栄に存じ上げつつ、身の引き締まる思いです。
 世界的な災厄で喫緊の課題が山積する中、臨床に立たれている方々、あるいは実践として様々な学問に従事している方々にとって、病跡学とは何かという永遠の課題が、胸のうちに去来することが多くなっているのではないでしょうか。この問題は、これまでも総会テーマに選ばれたり、多くのシンポジウムで議論されてきたりしてきました。私自身、いまだに結論を持ち合わせていません。

 ところで、私が好きな映画のジャンルで、手元にあるものを工夫して使い、それで生き延びるというものがあります。一冊の本が、金づちになり、何かの蓋になり、固定する重石になり、動物をつかまえる武器になる。枕代わりにしか使ったことのない私からすると、なるほどと胸躍る思いで見ているのですが、この場合、本は一体、本なのでしょうか。

 臨床や実践で重要なのは、「今すぐに役立つこと」のみならず、このような使い勝手のよさも含めてもいいのではないでしょうか。
 汎用性があって、定義という言葉による囲い込みから逃れる、自由なもの。
 病跡学もまさにそのようなものだと思います。様々なものと結びつくことができる柔軟性をもちながら飲み込まれない逞しい学知。
 もっとも、これは私の贔屓目かもしれません。

 今年度の総会のテーマは、病跡学の柔軟性、汎用性、逞しさ、したたかさを確かめることを目指して「臨床と実践と病跡学」としました。そこでシンポジウムで、「臨床と病跡学」で病跡学を臨床と連結する試みをなさっている先生方にその可能性を論じていただき、他学問と組み合わせることの可能性とその難しさを「実践と病跡学」で議論していただこうと考えております。さらに2022年はプルースト没後100年、ロールシャッハ没後100年です。これを記念して、プルースト研究の第一人者でいらっしゃる中野知律先生(一橋大学)、またロールシャッハテストの歴史から課題について青木佐奈枝先生(筑波大学)にご講演をいただく予定です。また原田啓之さま(医療法人障害福祉サービスPICFA)には、精神疾患をお持ちの患者さまに、治療ではなく職業として芸術活動を行うことを支援するという、非常に興味深いご活動のご紹介をいただく予定です。
 今回の総会だけは、「病跡学とは何か」という厳密な問いと定義づけはそっと横に置いていただき、その可能性を会員の皆様と十全に探ってみたいと思っております。
 「パンの街」つくば(http://bt-tsukuba.jp/)で、病跡学のもつ自由について考える喜びと、ついでにパンの美味しさを、会員の皆様方と共に味わうことができればと思っております。みなさまとお目にかかれることを、心より楽しみにお待ち申し上げます。

                                   第69回日本病跡学会総会大会長 佐藤晋爾